「はじめは、どせうなど、うまいもとおもわなかったけれども、底の浅い鉄鍋を前にして、薬味の葱を泥鰌の上へ盛り、煮えあがるかあがらないかというときに、引きあげて食べる。そういうことをしていると、何か一人前の大人になったようで、いい気分だったのである。」
「散歩のときに何か食べたくなって」 池波正太郎より
それなら一人前の大人になりに行こうじゃないか。
創業享和元年(1801年)、以来200余年の歴史を誇るどじょう料理の老舗「駒形どぜう」へ。以前通りがかりに見た風情のある古い建物も楽しみにしていたのだが、耐震補強工事のため防護ネットが貼られていて拝めなかった。
残念ながら看板だけの「駒形どぜう」
何回かどじょうは食べたことがある。嫌いでもなければ好きでもない程度のもの。でも浅草に行ってチャンスがあれば「駒形どぜう」には寄ってみたいとは思っていた。
どぜうなべ
少々グロテスクではあるが、これに備え付けの刻み葱とささがきごぼう(別注文)をたっぷりのせて煮えるのを待つ。
鉄鍋に炭火は雰囲気あるね。煮えるまで鍋を見つめるもよし。もちろんビールをお供に。それにしても葱のせ過ぎではありませんか、グルマン先生。
丁寧な下ごしらえのおかげだろう。泥臭さは殆どないがどじょうの風味は残っている。甘めのたれと薬味とがからまって酒の肴としては上出来だ。これは美味い。今まで食べたことのある柳川なんかとは一味も二味も違う。200年前はともかく今日までもどじょうという食材で客を引き寄せてきただけのことはある。店員の無愛想さも含めてこれが老舗というものだろう。とはいえ、どじょうはどじょうなんだけど。
柳川なべ
通常どじょうの泥臭さと骨っぽさを考えると柳川なべの方が食べやすいと思うが、こちらの場合はどじょうなべの方が断然うまかった。
他にも「さらしくじら」や「谷中しょうが」をつまみにしながら枡酒を頂く。これがまた合う。グルマン旅3軒目、どじょうの旨さを発見して幸せ気分。どじょうの割には値段が張るが、これも一人前の大人になるためですね、池波先生。
散歩の途中では寄れないが、ちょっと足を伸ばしても食べたい「駒形どぜう」。