最後にたどり着いたのは、瑞々しい桃が置かれたとあるバー。これは「大糖領」という山梨県笛吹市産の貴重な桃らしい。
この時期にバーで桃といえば、「ベリーニ」である。ベネチアにある「ハリーズバー」で生まれた桃のカクテルだ。
さて、僕はとあるバーでは殆どの酒を、信頼を寄せる店主に任せることにしている。気分とイメージだけを伝えれば、その日その時の自分に適した酒が静かにカウンターに置かれるのだ。必然性と意外性がシェーカーで振られてサプライズとなって登場することもある。
しかし、店主が内緒のつもりで作っていても、最初から分かってしまうカクテルがあるんだな。この時期に「キィ~コ、キィ~コ、キィ~コ…」と音がしたならベリーニだ。
店主は、手動かき氷機でカクテル用のかき氷を作るのである。
「大糖領」という桃で作られたベリーニは、濃厚な甘さで格別だった。ベリーニは夏の到来を告げる風物詩だ。
桃の季節のとあるバーでは、店主がかき氷機を回す音がこだまする。
「キィ~コ、キィ~コ、キィ~コ…」
待てよ、「キュル、キュル、キュル…」だったかなあ?Such Is Life.