神父様、巡礼の旅路は3日目を迎えました。早くも寝不足と胃腸疲労に見舞われています。これも自業自得…ではなく、巡礼者に与えられた試練と思い自らを奮い立たせました。
ポルトは生憎の空模様でした。晴れていれば絵葉書のような美しい街であることでしょう。しかし、私の気持ちは決して沈んではいませんでした。
雨にも拘らず気分が高揚しているのは、ドウロ川に架かるドン・ルイス一世橋の袂には幾つかのポートワインのワイナリーがあるからでした。
SANDEMAN 1790年創業のワインセラー
巡礼の途中ではありますが、こちらのワイン工場を見学していくことにしました。
芳醇な甘い香りに包まれた醸造所は、お洒落なセンスでした。
見学を終えると試飲をさせてくれました。朝からワインなんて不謹慎…とも思いましたが、お断りする正当な理由も見つからなかったので頂きました。ポートワインはあまり縁の無いお酒です。知っているのは古の「赤玉ポートワイン」のラベルぐらいでしょうか。甘~いワインを想像していましたが、まろやかさとコクを合わせ持った素敵なワインでした。
私は「午前中は2杯まで」と神に誓っていますので、試飲以上のワインに手を付けることはありませんでした。信じて下さい。その後はポルト中心部の観光です。
サン・ベント駅
駅の構内はアズレージョ(ポルトガル伝統のタイル)の装飾が見事です。このアズレージョは教会や店舗、普通の家の装飾にも至る所で使われています。
クレリゴス教会
45分という僅かながらの自由時間を頂いたので、目的地に向かって雨の中をそそくさと歩きました。こちらの教会は祈りも捧げずに通り過ぎただけでした。お許し下さい。
レロ・エ・イルマオン
目的はこちらの建物です。英国の新聞が選ぶ「世界の美しい書店」で第3位に選ばれた書店です。
中央から2階に上がる階段は「天国の階段」とも呼ばれ、美しい曲線のシルエットは書店とは思えない優美な階段です。なんですが、余りの人混みでゆっくり鑑賞も出来ません。
ハリー・ポッターの原作者、J・Kローリングが英語教師としてポルトに赴任していた頃、この書店がハリー・ポッターの世界観に影響したのではないかと言われています。
こちらは書店なのに、実は入場料(4ユーロ)を取られます。書籍を買うと入場料分を引いてくれますが、買う本を無理矢理探して入場料以上の出費をしてしまい、まんまと書店の思うツボにハマってしまいました。
Pestana
昼食はポサーダ(中世の古城や修道院を改装したホテル)で頂くことに。
豪華な内装に内心おじけづいていた私です。
飲み物はヴィーニョ・ヴェルデを。ここで正直にお話ししておかなければならないことがあります。実はこの頃からでした。昼からワインをボトルで飲むようになったのは…。しかし、いけないのはポルトガルのワインの安さです。グラスワインをお代わりする計算をするとボトルの方がお得なのです。まあ、計算の仕方にもよりますが…。
アスパラガスのスープ
冷たくて濃厚なスープでした。アクセントにスモークハムのチップが効いています。酒のつまみになるスープでした。スープをつまみにした卑しい私をお許し下さい。
ハーブとエビのソースのサーモン
ベーコンに巻かれた太っ腹のサーモンを見るのは初めてでした。こんにちは!
なんということでしょう!こんなに厚い身なのに脂がのっていて臭みはまるでありません。サーブがゆっくり過ぎてスープとワインで既にお腹が一杯になっていた私でしたが、「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出せ」という主の言葉を思い出し、苦痛を感じながらも完食しました。(苦痛が快感に変わったことってありますか?)神父様、意味は合っていますでしょうか…?
スライス・フルーツ
豪華な雰囲気の中で洗練されたご馳走を頂き、この上ない満足ではありましたが、2時間に亘る食事中に 隣席のおじ様やおば様たちの辛辣なお話のお相手に目眩がした私でした。(海外を渡り歩いておられるご高齢の方たちは、一家言を持たれております…)
腹に物を詰め込むと、今度は自分がバスに詰め込まれることの繰り返しでした。そして昼食後は4時間超の移動となりました。次に目が覚めた時に、自分は豚に生まれ変わっているのではないかという恐怖を感じたものです。
歓喜の丘
暗雲立ち込める丘にやって来ると、彼方を指差し歓喜を上げるお二人の巡礼者がおられました。
今でははっきりとは見えませんが、数百kmの道のりを歩いてきた巡礼者は、この丘にたどり着くとサンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂の尖塔を見つけて歓喜を上げたという場所です。 バスで到着してしまった私は歓喜の声を上げる資格はありませんでした…。
そうなのです。とうとう私は巡礼の聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラにやって来たのです。カテドラルへの礼拝は明日です。
そして夕食なんですが、ポサーダでの昼食が全く消化できておらず厳しい闘い(私は何と闘っているのでしょうか?)となりましたが
この鶏肉がすこぶる美味しくて無意識の内に完食してしまいました。
反省して「デザートは遠慮しようかな…」と呟くと、「いいから食べなさいっ!」と同席のおば様から激が飛んだので、涙ながらに食べたのです。信じて下さい。もはや自分の意思だけではままならない泥沼に足を突っ込んでしまったようです。
これですね?巡礼学者の方が「ホタテ貝の飾りを付けてピレネーを越えて歩く(走る)コレコレ・・・」と力説されていたのは。いよいよここからが巡礼の本番です。Such Is Life.
懺悔はさらに続く…。