神父様、私はサン・セバスティアンという街にやって来ました。ここは近年「美食の街」と謳われ、多くの美食家信徒が巡礼に訪れると聞いています。私は胸の高まりを抑えることが出来ませんでした。今からこの街で収めた写真を紹介させて頂きますが、ご覧頂くのに際し、ご注意願いたいことがあります。多くの料理写真が出て参りますが、私が全部食べたわけではありません。どうか私を信じて下さい。
Oquend
バル巡礼1軒目は予定外の行動となってしまいました。ホテルから市街へ出る際に、ツアー同行のおじ様たちからタクシーの相乗りを誘われたからです。「人気の店を調べてあるから一緒にどう?」とお誘いを頂いたので、お断りするわけにはいきませんでした。
それでも初めての本場のバルに身震いを覚えました。
この街ではチャコリという微発泡のワインが人気です。香りを立てるために高いところからワインをグラスに落とします。サッパリしていてピンチョスのお供に最適です。
視点が定まりません…。
イワシ、チャングーロ(カニの身入りパイ)、シーフードカクテル
イワシとカニは新鮮そのもの。 特にグラスに入ったシーフードのソースと食感は忘れられないものとなりました。
フォアグラのプランチャ(鉄板焼き)は青りんごソースと。
期待以上の愉しさに私は理性を失いかけていました。このまま本能の赴くままに、このバルに骨を埋めても良いとも思いましたが、この街には無尽蔵にバルがあることを思い出し、我に帰ったのです。
同行したおじ様たちを振り切って、旧市街の真ん中にやって来ました。サン・セバスティアンの旧市街は簡単に歩いて回れるほどの狭いエリアです。その中に数十件のバル(百軒以上との情報も)がひしめき合っています。男性だけの会員による「美食倶楽部」もあったり、中にはミシュランの星が付くレストランも幾つかあるようです。
Ganbara
さて、いよいよバル巡礼2軒目です。(いつの間にか巡礼になっていることをお許し下さい)事前に取り寄せたガイドブックやネットで調べた人気店に突入しました。こちらはキノコ料理で有名のようです。
ここは物凄い混雑でした。カウンター越しにカマレロ(店員)の注意を引いてオーダーします。カマレロは担当になった客のオーダーを記憶していて最後に精算します。
キノコのプランチャ(鉄板焼き)
このバルの名物料理。前に居たお客が食べていたので, 「コレ頂戴」の指差し注文で通じます。卵黄をからめて頂くと、キノコの芳ばしい香りが鼻を抜けます。次の料理に進みたかったのですが、あまりの混雑に身動きが取れなかったのでお布施をして撤退しました。
Gandarias
早くも巡礼3軒目ですが、バルでの長居は禁物らしいです。2,3品を食べて次の店へ巡礼(ハシゴ)するのがバルの楽しみ方。私が異常なわけではありませんので。
ここでもチャコリを落としてます。そのまま浴びたい気持ちに駆られます。
こちらのピンチョスの美しさといったら…!神が降臨したような輝きを放っています。私はどれを頼んで良いものやら頭が錯乱しました。(ここも混雑が酷くて向こう側のピンチョスを拝みにいけないのが残念!)
もはや自分の思考は麻痺していたので、カマレロのオススメでチャングーロ(カニの身パイ)、魚と青唐辛子のピンチョスを頂きました。
この青唐辛子(だと思われるもの)が、爽やかで適度な辛さとシャキシャキ食感。
ここでもフォアグラのプランチャを。リーズナブルな値段です。日本ではなかなか食べられませんから 。まったり、ねっとりで…口の中から消えていくのが(待ってくれー!)口惜しい思いです。
Txepetxa
巡礼4軒目のこちらはイワシ専門のバルです。
こちらでもチャコリを落としています。
先程も出て来た青唐辛子(だと思われるもの)にアンチョビのオリーブオイル漬けが巻かれています。シンプルながらもアンチョビの塩加減と唐辛子がご機嫌な関係です。
イワシに多彩なトッピングのピンチョスを作ってくれます。目はまだまだ欲しがっていたのですが、そろそろお腹が…。というのも毎度とりあえず飲み物を貰って、(そんなに飲めない)カミさんの飲み残しをやっつけていたので酔いが回ってきました。バル巡礼は苦行でもあります。(余計なことを言ってしまいました。お詫びします)
La Vina
夜も耽けて、バル巡礼仕上げの5軒目です。23時をとうに過ぎても人だかりは消えません。こんなバルが数分歩くと次から次へと登場するのです。右も左も街中バルだらけ。ここは食の宝庫、食の天国です。
ぼちぼち限界です。気持ちばかりが前に出ても意外と食べられるものではありません。
こちらのお目当てはチーズケーキです。大半のお客が注文していました。味は濃厚でふわふわ食感だったような…記憶です。まだまだ巡礼を続けたいところでしたが、そろそろ記憶が薄らいできたので、後ろ髪を引かれながらもバルを後にしました。
聖地でした。まさに聖地です。ここが私の目指していた聖地だったのです。目にも美しい色彩りどりのピンチョスと数え切れない程のワイン。ひしめき合う客の喧騒と幸せそうな顔と顔。この街はオーラさえ感じます。しかし、巡礼(滞在)時間が一晩だけでは十分な礼拝(飲食)をすることもままならず、信徒としては不遜な私でした。ここに住みたいとは言いませんが、ここで昇天するには2泊や3泊は必須でしょう。神父様、私がいつの日かまたここに戻って来られるよう、お導き下さい。
神が宿る美食の街、サン・セバスティアン。食の聖地でした。
信じる者は救われます。Such Is Life.
そろそろどうでも良くなって来ましたが懺悔は続く…。